ブードゥー・レーシック

 数年前の話だが、DPE店でアルバイト勤務をしていた頃に出会った人のこと。

店舗はショッピングモール内の小さなテナントで、お客様ご自身がプリントしたいデータをタッチパネルで選択し、出力された注文書を受付に持っていくというシステムだ。

ご年配の方にはタッチパネルの操作方法を教えて欲しいという方が多く、その日も60代半ばと思われるご婦人に声を掛けられた。

機器の前に立つと、ご婦人は瞬きもしていないのではと思われるほど私の顔をじっと見つめている。見るのは私ではなく操作画面ですよ。

と、ご婦人は真剣な声色で「あなた、ちょっとメガネを取ってみて」と言い出した。

メガネを外せば操作画面が霞んで見えなくなるではないか。しかしお客様相手に嫌だとも言えず、私は渋々メガネを外した。

途端、ご婦人はメガネに向かって手をかざし、「アンチョビ~ヨッホレ~イヒ~(仮)」などと良く分からない言語を唱えはじめた。ご婦人の額にはほんのり汗が浮かび、呪文を唱え終えると爽やかな、しかし真摯な顔つきは揺るがないまま私に向き直った。

「これであなたのメガネはよくみえるようになりました!」

彼女の想定外のキャラクターに圧倒された私は「そうですね、いい感じですはい!」などと頓珍漢な回答に加えて、そのまま何も注文せずに去って行ったご婦人の背中に「ありがとうございました」とお辞儀をしたのだった。

よくみえるようになりました、と言われても私のメガネはもともと度付きであるから意味はない。どうせなら視力のよくなるレーシック呪文とかにしてほしかった。

現在はさらに視力が下がり、別のメガネを愛用している。呪文を掛けてもらったメガネは、一応は自宅用として現役だ。